酔いしれる情緒
「その小説もそうだと思って?」
「うん、まあそうだね。」
「ふぅん…」
その話からよると
春もいろんな本を読んできたんだということに気がつく。
主に、映画化が決定した物とか。
「ごちそうさまでした。」
食べ終えたらしい春は私の目を見て手を合わせた。
「今日も美味しかったです」
「……そう。なら良かった」
いつもみたいに「美味しい」と言わずに食べていたから、不味いのかな、と少し不安になっていた気持ちがその言葉によって和らぐ感じ。
「ねえ、凛。」
少しだけ残った水を飲み終えると
「あとで俺の部屋においで」
いつものように微笑みながら、私を誘う。
「えっ、ヤダ」
「…ああ、違う違う。
そんな怯えないでよ。
ただ、見てもらいたい物があるんだ。」
「見てもらいたい物…?」
「きっと、凛、喜ぶよ。」
その言葉、信じていいのだろうか。
部屋に行ってまた襲われたりしないだろうか。
またあんな事をされたら…
少し前と違って春の事を意識しているからか、左の胸らへんが苦しくなる。
その感じが、すごく、苦手だ。
「俺、先に部屋にいるから、落ち着いたらおいで。」
使った食器を持って、シンクへと持っていく春が私の隣を通ると
「待ってるね」
「っ、」
耳元で、そう囁いた。
静かなこの空間ではその声が嫌というほどに耳に響く。
(いちいち耳元で言わなくても……)
普通に聞こえるし。
反応しちゃダメだと思って目の前の残り少なくなったグラタンを頬張った。
………ほら。
これだけの事なのに身体中が熱くなる。
春に出会ってから、おかしいよ、私の身体。