酔いしれる情緒
ふー…と出した息から煙が出ていくのをジッと眺めていれば
「なんか、見られるの恥ずかしいっす」
慎二くんは照れ臭そうに顔を少し赤らめた。
「ああ、ごめん。ボーっとしてて…」
「今日の安藤さん、朝からずっとそんな感じっすよ」
慎二くんもどうやら違和感を覚えていたらしい。
「なんか、悩みっすか?」
「いや…まあ、ちょっとね……」
「俺でよければ話聞きますけど」
グシャッと。灰皿に煙草を押し潰すと、箱からもう一本煙草を取り出した。
コイツ、きっとヘビースモーカーだわ。
「…………もし、さ。
自分の知り合いがテレビに映る人、だったらどうする?」
「ん?どういうことっすか?」
「うん、ごめん。私も自分で何言ってるんだろうって思った。」
ほんと、何言ってんだろう。
私はアイツが芸能人なんじゃないかって、思っているのか。
「知り合いがテレビに映る人って……安藤さん芸能人と知り合いなんすかっ!?」
「ちょっ、ゴホッ…近いって……」
「あっ、さーせん!!ついテンション上がっちゃって」
興奮気味の慎二くんは前のめりになって私に近づくから、それと共に口から出た煙が私の顔面に当たって、むせた。
吸うのは構わないけど顔面に当ててこないでよ…
「そうじゃなくて、"もしも"の話だよ」
「なーんだ。誰かと知り合いなのかと思ったじゃないすか~」
「そんなわけないじゃん。ただの一般人が芸能人と出会えるわけないし」
「まあそれもそっすよね。」
うんうん、と頷く彼はどうやら私と同じ意見みたいだ。
「でも、もし出会えるなら俺は"ツムギちゃん"に会いたいな~」
つむぎ…?
「誰?」
「えっ、知らないんすかっ!?あの桜田(サクラダ)紬ちゃんっすよ!今超有名な女優さん!!」
「あー…私テレビとか見ないから、詳しくないんだよね」
「テレビ見ない人とかこの時代にいるんすかっ!?」
いますよ、ここに。
目を丸くさせて、驚きのあまりにかゴホッゴホッとむせていた慎二くん。
そんなに驚くことか?