酔いしれる情緒




(うそだ…ありえないって……)





未だに疑いの目で見つめるも、
その顔は春そのもので。





見るたびに胸の奥が苦しくなった。




昨日のキスの感覚が蘇るほど、春に似ている。





(……でも)





───何か違う。




なんだろう…雰囲気が?


それとも、この笑顔?





「あっ。そろそろ安藤さん休憩終わりじゃないっすか?」





壁に取り付けられた時計を見てそう言う彼に





「ほんとだっ……」





私は慌てて仕事の準備をする。




チラリと、最後に一回だけ、一ノ瀬櫂の顔を見て。


桜田紬と向かい合うように微笑み合う2人。





顔はやっぱり春に似ているものの


何か、違う。





……ああ、また不思議な気分だ。


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