酔いしれる情緒
ガチャッ…と静かにリビングのドアが開く。
それと共に視線を移して
「お、おかえり……」
平常心だと思っていたくせに、緊張して少しオドオドとしたような声で言ってしまった。
瞳に映るのは、丸眼鏡を身につけている彼で
手元に例の大きめマフラーを持ってる。
家に着いた瞬間外したのだろうそれを見つめていれば、
「ただいま」
フワリ、と
柔らかい笑みを浮かべてそう言った。
(うわっ、やばい)
意識しない
そう思ってたくせに
その笑みで一発アウト。
ドキッと心臓が大きく揺れては身体が熱くなっていく。
きっと赤い私の顔。
それを隠すようにして春に背を向ける。
バクバクと煩い心臓をどうにか落ち着かせようと、意識を料理に向けた。のに、
「っ!ちょっ……」
後ろから春に抱きしめられては、
意識は一瞬にしてそっちへ。
「な、に……離れてってば、」
ああ、心臓が煩い…!
心も脳内も荒れているけれど、表情だけは平常心を貫いた。
「もしかしたら、今日、帰ったら凛いないかもって思ってた。」
「っ、」
「でも、帰ってきたらカレーの匂いがした。
凛、いるんだって。
出て行ってないんだって。」
ギュウ…と強く抱きしめられる。
耳元で話されると、なぜか背筋がゾクゾクして、変な感覚に。
「おかえりって言ってくれて、ただいまって言える関係……いいね。」
「分かったから……もう離して」
じゃないと、私……変になりそう。
春に触れられている
ということが私を変にさせる。