彼女がマスクを外さない
ドキドキとなぜか高鳴る鼓動。
マスクを外すだけでこんなに高鳴るのは初めてだ、ほんとに。
「マスク変な匂いする~」
そんな恵美の一つ一つの動作に微妙に緊張してしまって
「……あの水のせいだな」
「だね」
返事をするのが遅くなる。
そして
いよいよ恵美がマスクのヒモに手を掛けようとした、
ーーー瞬間だった。
「替えのマスク何処だっけ」
「…………、え?」
ガサゴソとカバンの中を探り始めた恵美を見て
俺は「は?」っと衝撃を受けた。
替え?替えのマスク?
まて、まてよ。
「もうひとつマスク持ってきてんの?」
恐る恐る聞いた俺に
「うん、念のために」
恵美は躊躇なくそう言い放つ。
「(……なんだよそれ)」
俺の期待は瞬く間にえぐられて
今年一番、
鼓動を無駄に早く動かせたと思う。