彼女がマスクを外さない
「そ、っかぁ…」
「……ん」
重たい空気が漂い
無言が続く
繋いでいた手が
少し
緩くなった気がした。
「えっと…」
違う会話
なにか違う会話を…
元カノの話なんて
本人も嫌に決まってる。
正直言って、
私自身も聞きたくない。
二人の後ろ姿がお似合いだった
なんて
今はもう考えたくない。
「きょ、う暑いね」
「……いや寒いだろ」
「あ、ほんとだ、ははっ」
あぁ…
何か、会話…
「なぁ恵美」
「へっ、は、はい」
繋いでいた手がスルリと離された、かと思いきや
その手は私の腕をゆるりと軽く掴み上げて
「好きだよ」
…そんな事、知ってるもん。
なのに照れてしまう私も
今だにその言葉は慣れてないらしい。
私のこの小さな身体を
栄ちゃんは自分の元へ
近くへ
心臓の動き、たぶん聞こえてる。