彼女がマスクを外さない
恵美は俺の事を”栄ちゃん”と呼ぶ。
栄介だから栄ちゃん
「あーちょっとまって、今行く」
モヤモヤとした気持ちの中で
帰る準備をする俺。
「帰ろ」
「うん」
そしていつものように
俺は恵美の手をとって
軽く握って手を繋ぐ。
「帰りコンビニ寄っていい?」
「いいよ」
俺より背の低い恵美は
女子の中でもまだ小柄の方で
俺と並べば身長差が激しいカップルに見えるはずだ。
そんな小柄が可愛いと男女問わず人気で
まあモテる。
「ちょっとまってて。買ってくるわ」
「うん」
「………あー。
やっぱ一緒に来て」
一旦離した手を俺は再び握り直す。
「?」
マスクのせいで表情は分からないが
たぶんキョトンとした表情を浮かべてるはず。
前に
恵美に今のように待っててもらったのだが
その後いろいろと大変だった。
俺が買い物を終えて出てきたら半泣きの状態の恵美と
恵美の腕をつかむ三人ぐらいの男。
ナンパされたらしく無理矢理連れ去られそうになったらしい。
まあ相手が全員ビビりって事もあって
なんとか喧嘩沙汰にはならずに終わったのだが
あの時の恵美は帰り道ずっと震えていたっけ。
まあその日の帰り道に初キスをしたんだけど。