彼女がマスクを外さない



「………今日だけ」

「ダメ」


ズンズン歩く。


けど恵美は後ろから必死に追いかけてくる。


そして、


俺の無造作に動いていた手を

クッと力強く引かれると


「お願い……っ」


涙目で俺にそう訴える。


俺の手を掴むその小さな手は

微かに、

本当に小さく震えていた。


「…………」


ほんとズルイ手口だと思う。


いや、違うか

ただ俺が甘いだけ


「………今日までな」


そう言えば

恵美の瞳はキラキラ輝かせて

さっきの表情は綺麗に消えていた。


まさかとは思うが

騙されたのかもしれない。


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