彼女がマスクを外さない
「あれ?恵美どこ行くの?」
ガタッ、と音をたてて
勢いよく立ち上がる私。
「栄ちゃんのところに行ってくる」
そう返事をした時だった。
「(あ……)」
…ダメじゃん
会っちゃいけないんだ。
ハッと我に帰って、今の私達の状況を思い出した。
自然と止まった足
どうしようと考える自分
約束は…守らないと…
「行かないの?」
再び席に戻って来た私に、春ちゃんが表情を伺うようにして覗き込んだ。
「……、うん。やっぱりいいや」
会いに行きたい。
けど、会えない。
会ってはいけない。
その気持ちをグッ、と堪えて
心に秘めて
私はニコッ、と笑顔を見せた。