彼女がマスクを外さない
そんな栄ちゃんの後ろ姿を見ていれば、
片手に二つのジュース。
栄ちゃんも買いに来てたんだ、と
密かに気がついた。
7組の方に戻って行く栄ちゃん
その後ろ姿を、少しだけ眺めてから階段の方へと向かう。
が。
「あ!栄介ありがと~」
「(っ!)」
その声に、私はパッと後ろに振り返って
声の主を見てしまう。
「(あ……、…美羽ちゃん)」
扉の前で栄ちゃんの事を待っていたのか
そこには、笑顔でジュースを受け取る美羽ちゃんの姿と
美羽ちゃんにジュースを渡した栄ちゃんの姿。
「やっと飲めるよ~」
「良かったな」
「はい。コレお金」
「いいって、いらねぇ」
「いいからさっさと受け取れ」なんて美羽ちゃんが言いながら、
教室の中に入って行く栄ちゃんの肩に触れていた。
「(…………)」
友達にジュースを買って来てあげるとか、
触れるとか、
ただ普通の事なのに
ズキッ、と胸が痛む。
『一緒に帰ってたよ』
『浮気されてるんじゃない?』
…こんな事言われたら
普通の事が全て不安になる
本当に浮気されてるんじゃないかって
気にしてしまうから、嫌だ。