彼女がマスクを外さない
「やっぱり、そうだよね」
そして吹っ切れたかのように
ガタッと席を立った美羽。
二人しかいない放課後の教室は
その音がうるさいくらいに響いた。
「……………」
俺は気まずそうに目を逸らす。
けど、美羽はそんな俺の顔を覗き込んで
「聞いてくれてありがとう。じゃあ私帰るね」
ニコリと微笑んで、カバンを肩に掛けた。
「…おい待て。足、大丈夫なのか?」
捻挫だと聞いていたにも関わらず
一人で帰ろうとする美羽を呼び止めれば
「なに言ってんのバカ。捻挫なんてとっくの前に治ってる。…一緒に帰るための口実だったの」
振り向き際に言ったそれ。
「ほんとそういうとこは鈍いよね」なんて呟いていた。
「じゃあね。」
ひらりと俺に向けて手を上げると
「あっ」と声をあげて、また振り向える。
「フったからって気まずそうに接するのは禁止!…お願いだから、いつもと同じように接してね。」
無理矢理笑っているように見えた。
けれど
「……ああ、分かった」
その返答に
美羽はフワリとした笑みに表情を変える。
その時の笑顔には、
無理矢理感は全く感じなかった。