彼女がマスクを外さない





「………あとー、

恵美ちゃんに謝らないといけない事がある」

「……え?」




謝らないといけない事…?

ドクン、と心臓が一瞬で速さを増した。

え、なんだろう…怖い




「……ごめんね。

私、口実を作って栄介と一緒に帰ったりしてた。

恵美ちゃんと栄介が喧嘩してるって聞いて、チャンスだって思ったの。」

「っ、」




謝らないといけない事

それは友達から聞いたあの話の事だった。


やっぱり一緒に帰ってたんだ…

友達の言っていた事は事実なわけで

手も繋いでいたんだと思えば、胸がズキンと痛くなる。




「……でも、栄介は一度も振り向いてくれなかった。

ほら、栄介ってさ頼まれた事って断れないタイプでしょ?

だから私の口実でも、信じてくれて一緒に帰ってくれた。

そういう所にまた惹かれちゃって」

「あ…………」

「でもね、もうフラれたからスッキリした。

好きだよ、もちろん。

でも栄介は恵美ちゃんの事しか興味ないみたいだし、

頑張りようがないよもう……。」




ニコリ、と微笑むと

「もうバス来ちゃうから行くね」

軽く手を振って、私とは別の方向に歩き出す。


私も手を振り返したけれど、美羽ちゃんは気づいていない。

一度も振り向こうとしなかった。


ただ後ろから

片手を目の位置に持っていく美羽ちゃんの後ろ姿を見て


私も目の奥が熱くなる。


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