彼女がマスクを外さない
その姿を目にした瞬間、俺はゆっくりと立ち上がる。眠気は一気に覚めた。
恵美のいる場所に自然と向かっていれば、途中恵美に気づかれる。
「栄ちゃん…!見てこ…っ、」
喋る恵美の口を手で塞ぐ。
勿論、マスクは装着済みのため、その上から手をあてた。
「屋上行くぞ」
そう伝えれば、喋れない恵美はコクコクと何度か頷いた。
屋上の扉を開けると、ちょうどいいタイミングで、誰もいない。
ホッと胸を撫で下ろし、恵美の方へ振り返れば、
「っ!」
突如目の前に結果用紙。
近い近い。
「見て。ちゃんと見て」
「見たいけど近過ぎだから」
「あ。」
そっと紙が遠のいていく。すると徐々に見えてきた数字。
それは確実、留年する恐れのある数字ではない。
「………………」
紙で顔を隠す恵美に、俺はゆっくりとそれを取り上げた。
見えた顔は少し照れくさそうに頬を赤らめていて
「……ご褒美。…くれるんでしょ?」
二ヘラと笑う恵美。
その顔に、マスクはもう、無い。