彼女がマスクを外さない
「栄ちゃん」
「………なに」
突如、名前を呼ばれるものの、目線は空へ。
見るのが嫌とかそういうワケではなくて、ただ見れない。
「(どうしたものか……)」
こんな俺、ドンクサ過ぎる。
ちょっとの変化だけで、普通ここまで緊張するかよ。…いや、だいぶ変化したけど。
無駄に激しく動く心臓。と。
「(っ、)」
服の袖部分をギュウッ、と掴まれてしまえば、
もう目線を逸らすワケにはいかない。
「(ああ、もう)」
目線をゆっくり恵美に向ける。
恵美はそれに気づくなり、目を閉じた。
「(……っほんと、)」
スッ、と手を恵美の頬へ。
その柔らかい頬にスルッと触れてしまえば、恵美はピクリと反応する。
「どうなっても知らねーぞ…」
その手で恵美の顔を上に向かせて、ゆっくり近寄りキスをした。
忠告はした。歯止めが効かないかもしれない、と。