彼女がマスクを外さない





「も、もう…無理……」




はぁ…っと息を漏らす恵美。酸素が足りない、と必死に呼吸する。




「まだ足りねぇーんだけど」

「待って待って待って!!」

「…なんだよ」




再び拒まれたそれに、チッと俺は舌打ちする。




「もう、体力、ない」

「俺はある。てゆーか体力なんて関係ないだろ。」

「ある!体力必要!!」




…絶対必要ねーだろ。


だけど必死に説得された挙句、俺は諦めて手を離す。




「はあ…やっと解放…」

「……………」




安心しきった顔見せやがって。




「……俺だけかよ」




ボソリと呟いた。


恵美に背を向ける俺。そんな姿に恵美は「ん?」っと顔を覗き込む。




「……触れたいって思うのは、俺だけかよ。」




やはり。今日の俺はどこかおかしい。


いつもは言わないそういう言葉。だけど今は、なぜか、調子が狂う。




「……っ、冗談だか……ら?」



ハッと我に返って、何言ってんだ俺。と、振り向こうとした時。



ドンッ!と、背中に軽い衝撃。お腹周りに締め付けられるような感覚。


抱き締められてる。そう気づくのには時間はかからなかった。


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