彼女がマスクを外さない





「なっ……」




こういう事されたらまた理性が。と、焦りつつある俺に


ギュウゥッとその細い腕で、痛い程、抱き締められる。




「………痛いんですけど。」

「えっ。わ、ごめん」




正直言って、この体制物凄く照れる。たぶん赤い俺の顔。




「(絶対見られたくねぇ…)」




スルッ、とゆっくり離れていったそれ。だけど、振り向くのは、今は無理だ。





「栄ちゃん」




後ろから声がする。


勿論それは恵美の声で、俺の名前を呼ぶものの、振り向けないのが現実。




「(くっそ…、早くおさまれ…)」




再び口元に手を当てて、眉根を寄せる。と。




「好き。」

「っ、」

「大好き。」

「っーー。」

「好き好き好き好き。大好き!」

「ああもう分かったから…!」




バッと振り向いてしまった。


するとニヤニヤと楽し気に笑う恵美の姿が目に入る。



コイツ…っ、俺がこんな事になってるの知って楽しんでるな…

< 68 / 75 >

この作品をシェア

pagetop