彼女がマスクを外さない
「やっとこっち見た」
「っ……、」
ニヘラと顔を緩ませて笑う恵美に、眉根を寄せて見つめる俺。
くっそ。…最悪。
でも見られてしまったものは仕方がないし、隠すなんて行為はもうバレているのだからする必要は無い。
「………マスク」
まだほんのりと赤いだろう俺は、話を逸らすかのように、別の話題を切り出すと
「ん?」
「やっと、外したな」
「っ、」
ピクリ、と肩を少し跳ねさせて、小さな反応を見せた恵美。
俺にとってはすごく嬉しい事。
ただマスクを外しただけなのだが、俺にとっては嬉しい。
「なんで付けてたんだよ」
やっと外したからこそ、聞けるそれ。ずっと気になって仕方がなかった。
理由によっては、傷つくかもしれないが…
とりあえず心の中のこのモヤモヤをどうにかしたい。
「やっぱり、気になってた?」
「当たり前だろ。いきなり付け始めてさ、夏なのに付けてたし」
「うん……」
少し、沈黙が続いた。
俯く恵美に「理由は?」っと、顔を覗き込む。