彼女がマスクを外さない
「あいつ、ヤケに恵美に関わってくるみたいだけど、なに?」
「あいつ?…もしかして武智くんの事?」
「そーそータケチクン」
黒髪でスポーツ刈り。
俺よりも背が高い。
初めて会ったあの日から、要注意人物として意識していた俺。
恵美に好意がある筈。
そう思っていたけれど、恵美が言うからには違うらしい。
「武智くんが私の事好き?あはは!違うよ、全然!
武智くんね、私の友達が好きなの。春ちゃんって言うんだけど、片想い中なんだって。
まあ春ちゃん恋愛とか興味なさそうな人だから」
そうして再び大笑い。
「とんだ勘違いだね」
「本当にな……」
要注意人物として意識していた自分が恥ずかしく思う。
「はあ…」と溜め息を吐き出した俺に、恵美はクスリと笑えば
「そんなに私の事好きなんだ?」
ニヤニヤとにやけ顔。
「は?」
「素直になりなよ」
「お前がな」
「私はいつも素直だよ」
「自意識過剰」
その後「んなっ!?」と、声をあげた恵美は俺の脇腹付近をボコッと殴った。