彼女がマスクを外さない
「いっ…!」と声をあげる俺。
そんな俺を置いてけぼりにし、ズンズンと先に進んでいく恵美。
だけど途中で振り向けば、
「ほら早く行くよ」
キョトンとした表情で俺を見つめる。
「(お前が殴ったからだろ…)」
そうは思いながらも、恵美が待つその場所まで自身も足を進めた。
結構効いたあのパンチ。脇腹超がつくほどいてぇ…。
その地味な痛さに顔を歪めていれば、大笑いをする恵美を横目に、
前ならマスクが邪魔で見れなかったその笑みに、
「(やっぱこっちだな)」
声には勿論出すつもりはないが、心の片隅でそう思った。
「可愛い」とか言っちゃえば、調子に乗るかスルーするかの二択だろうし。
「なに?ジーっと見てきて」
「別に」
「ほらまた!素直じゃないんだから」
口を尖らせる恵美に、俺はふっと笑う。
言わねーよ。絶対。
ポンポンと軽く頭を撫でてやれば「?」を浮かべて見上げるその顔に、
「そのままでいろ」
俺は再び顔を近づけた。
「もうマスクつけんの禁止。」
「え?なんで?」
「お前は俺に悩み込んで欲しいわけ?」
「なにそれ。でも風邪の時とかは?」
「……それはいい」
-彼女がマスクを外さない-End-