彼女がマスクを外さない
「恵美」
俺は恵美に呼びかけると
目線を上に上げた恵美に対して、ふわりとタオルを身体に引っ掛けた。
これで少しは隠れるだろう。
普通なら上着をかけてあげるのだろうが、今は夏。
上着なんてあるわけない。
「?」
またしてもキョトンとする恵美を見て
自分の姿に気づいてねぇのかコイツは。
なんて少し苛立ちも覚える。
マスクで顔を隠すより
まず自分の服を隠せと思うばかりだ。
「もうチャイム鳴るぞ」
「あ、ほんとだっ」
次数学だ~、なんて声で数学嫌なんだなって事が分かる。
まあ俺もどちらかと言うと好きではないが。
「教室まで送る」
「え?いいよいいよ。子供じゃあるまいし」
あははっと笑顔を見せる恵美。
身長からしては子供サイズだけどな。
「いいから」
「いいって」
「ほら行くぞ」
「いいって言ってるのに」
何度も断ってくるものだから
俺は恵美の肩に腕を回して強引に連れて行く事にした。