彼女がマスクを外さない






透けている服は後ろは隠せたものの
前は隠しきれていない。





「なあ。今度はちゃんと拭けよ」


「だから拭いたって隅々まで」


「髪の毛もな」





苦しいっ、ギブギブっ、と俺の腕をペチペチも叩いているが痛くも痒くもない。




まあ我慢しろ。
多分俺が邪魔で前も見えてはいないはずだから。





「(俺ってこんな独占欲強かったんだな」





俺にすっぽり収まる恵美を見ながら
そんな事を思わされた。




独占欲…か。
なんかちょっとヤダなそれ。





「うぇ、げほっ」


「大げさ過ぎだろ」


「力強いっての」


「あーワリ」





パッと腕を離したのは1組の教室前で
ちょうどチャイムが鳴ったところだった。





「栄ちゃんも急がないと」


「あーうん。じゃあな」





そう言って手をひらりと上げれば





「うん、また後で!」





満面の笑み、なのかはマスクのせいでわからないが
無邪気にほんと子供のように手を振る恵美を見て自然と笑みが出た。





「(マスクほんと邪魔だな)」





いつマスクを外してくれるのか。
それとも、このままマスクを付けっ放しでいるのか。




どちらにせよ





「(早く外してほしい)」





と願う俺。

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