無口な彼の妬かせ方
「翔……?」
聞かなくたって、分かる。
その黒色の傘に、私より少し高い背丈。
こっちに振り向いた顔を見てみれば、ほら、翔だ。
「なんで………」
憂鬱な気分が一気に弾けた感覚。
さっきまで静まっていた心臓が、激しく鳴り始める。
「用事、済んだ?」
「えっ?あっ……うん!終わったよ」
久々に聞いた翔の声。
用事なんてなかったけど、話に合わせてそう答えた。
「じゃあ、帰るぞ」
いつも通りの無表情で、スタスタと歩き出す翔。
もしかして………
ずっと待っててくれたの?
よく見れば、翔の服が少し濡れてるし……
「待っててくれたの?」
まっすぐ前を向いた瞳が、私の方に向けられた。