無口な彼の妬かせ方
「………………」
私の言葉に反応したのか、
ピタリ、と。
翔は足を止めて、
「わっ…!」
な、なに…!
突然私の片方の腕を引っ張り、
ぐっ、と距離が縮まった。
顔と顔の近さに私は赤面し、
口をパクパクと開いたり閉じたり、繰り返す。
抱き締められては、いない。
ただ引っ張られて、顔と顔の距離が近くなっただけで。
掴まれている部分がちょっと痛い。
「翔?」
何も喋らない翔に、
そう呼びかけたとき。
「っ…、…妬いてない」
とても小さな声だった。
でもかすかに聞こえたそれに、
私の期待はゆっくりと消えていく。
違ったか…。
まあでもそうだよね。
翔は妬かないから。
元の体勢に戻れば、私達は無言でまた歩き出す。
翔、はじめ何か言いたげだった…?
そう勘付いた私は、不思議そうに翔を見上げた。
まっすぐ前を見たままの翔は、私を見ることなく歩いている。
私と翔の間には、1人分の距離が出来ていて、
それがちょっとさみしかった。