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だけど




「華。」




華(ハナ)


たぶん、彼女さんの名前なんだろう。


その名を呼びながら彼女さん…いや、華さんの腕を掴んで呼び止める蒼空さんは




「家まで送る」




当たり前のように、そう言った。




「え、いやいいよ!仕事中なんだし」




いいっていいって!っと華さんは断るけれど




「うるせぇ、行くぞ。」


「え、ちょっと、」




強引にその腕を引いて、店の外へと足を運ぶ蒼空さん。


一瞬私を見たかと思えば




「悪いけど、陽葵さんには遅くなるって言っといて」




それだけを言い残して、華さんを連れて店を出て行ってしまった。



その時に初めて気づく、外がもー暗いということを。


パッと時間を見れば、時刻は8時ちょっと過ぎ。



(旅行の日と一緒…)



"もし蒼空さんの彼女だったら、断ったとしても家まで送ってくれていたのかな。"



あの日、そんな事を考えていたけれど読み通りだった。




(……そりゃそうだよね)




同じ職場の子よりも彼女を大切にするのなんて当たり前だ。



………だけど



(今は、それよりも…)



蒼空さんに大切にされているということが、


ただただ羨ましかった。


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