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「……ねえ、優…勘違いしてる。
でも……勘違いさせたのは、私か…」
ほとんど声とは言えないくらい微かな声だった。
その瞬間、
華さんはクルリと私達の方へ振り返ってー
「……好きだよ。蒼空のことが好き。
私が蒼空に好意があること。それは正しいよ。
けど蒼空とは付き合ってない。付き合ったことなんてない。
優がストーカーなんてするから…怖くて蒼空にお願いしたの。
そばにいてほしいって……
それを、優は勘違いした。
それが狙いだったけれど、まさかこんな事になるなんて……」
久々に見た華さんの顔は泣き疲れている、そんな顔だった。
笑顔はなく、ただただ苦しそうなその表情に私も胸の奥が痛くなる。
「好意があるって事……こんな事で知られたくなかったのに……」
ポロッ、と再び華さんの頬に涙が伝う。
「あっ…華さ……」
その顔を隠すように、華さんが優さんの隣を通り過ぎて下へと降りて行ってしまった。
自然と動く身体。
けれど私よりも先に動いたのは紛れもなく蒼空さんでー
「お前の妄想劇には反吐が出るわ。」
優さんとすれ違うその瞬間、
吐き捨てるようにして言っていたソレ。
廊下には蒼空さんの足音が響き渡る。
走って行ったから、
普通の足音よりも少し大きく聞こえた。