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「…………、心配?」




大学を出て、駅に向かっている最中

蒼空さんは私の顔を見ながらそう言った。




「……ううん、大丈夫。きっとうまくいく」

「ん。そうだな」




優さんと華さんを2人っきりにしているけど、


もう拗れることはないんじゃないかな。



華さんから聞いた話のように

はじめの頃の関係に戻れたらいいな

そう思ってる。




「………それよりも」

「ん?」





「蒼空さんとデート出来なかったー…」




今の私には、その事の方がショックが大きい。



久々にデート出来ると思っていたのに…

まさかこんな事になるなんて。




(いや、でも、今までのゴタゴタが解決する方向に向かっているんだから…それはきっと良い事だ、うん。)




デートよりも、その方が優先だよね。


そう自分に言い聞かせる。



けれど、テンションは上がらない。




「………………」




気分が晴れないまま、トボトボと歩みを進めていれば




「ひゃっ…!」




突如、私の頬になにやら冷たい物が触れた。




ヒヤッと冷たいソレ。




横から伸びてきたその手の方向に目線を向ければ

少し楽しげに笑う蒼空さんがいる。




「そんなことよりも、それでデコ冷やしとけ」

「そんなことって……」




まあ、言われた通り冷やすけどさっ




転倒した時にぶつけた額へその冷たい缶ジュースを当てた。


ヒリヒリしていた部分が冷たさによって治まっていく気がする。




その瞬間




スルリ、と。


私の手に触れたのは、きっと蒼空さんの手。




「っ、」




いつもと違う、繋ぎ方。


指を絡ませて、密着度の高い繋ぎ方。


俗に言う…恋人繋ぎってやつだ。




「また今度出掛けような」




優しく微笑みながらそう言うものだから


蒼空さんの笑みに弱い私は

まんまとその笑みに飲み込まれて




「うんっ!」




分かりやすく、目をキラキラと輝かせていたと思う。

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