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「あらっ、蒼空おかえり~」


「ただいま。」





チラシ配りを終えて帰ってきた蒼空さんは


お客さんがいる事に関しては驚きもしなかったのに





「お、おかえり」


「………………」


「なによ……」





エプロンと三角巾を見に纏う私に





「おままごと?」


「違うわっ!!」





真剣な顔でそう言う。





「見れば分かるでしょ!!」


「あー…だからこんなに甘い匂いすんのか」





そう



蒼空さんの言う通り、

只今事務所内は甘い匂いで充満している。




ただ、今回は心音さんがケーキを作っているわけではなく





「あーっ!それはまだ入れちゃダメよ!!」


「えっ!?ごめんなさいぃい」





慌ただしいキッチンには私と心音さん、それから依頼者の女の子が1人。




名前は陽菜(ヒナ)さん。




蒼空さんが帰ってくる少し前にこの事務所にやってきた。




「カップケーキの作り方教えてくださいぃぃい」と。号泣しながら。



わけを聞けば、バレンタインの日に好きな人に渡したいとのこと。





「家で何度作っても失敗ばかりで……挙げ句の果てにはレンジ爆発させちゃって、親に追い出されちゃいました…」





レンジを爆発させるって、どんな作り方をしたんだと。



まあでも、この事務所には料理上手の心音さんがいるし、簡単にパパッと出来ちゃうと思っていた。が。





「なんで膨らまないのかしら……」


「分かりません……」





何度焼いても、カップケーキは膨らまず。



「おかしいわねぇ」と、首を傾げる心音さんの隣には「うぅっ…」と涙を流す陽菜さんがいて。





「大丈夫だよ!また作り直そう!コレはお菓子処理班のあの人にあげればいいからね!」


「おい誰が処理班だ」





私はそんな陽菜さんを慰める係である。

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