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「いつものように、渡せずに終わるのかな……」
ポツリ、と呟くように言ったその言葉に
「っ、わっ…」
ずっと黙って話を聞いていた蒼空さんは
陽菜さんの腕を掴んで、しゃがんでいた身体を立たせた。
その行動に驚きつつある陽菜さんは、目を丸くさせていて
「絶対後悔すると思うけど?」
ジッと陽菜さんの顔を見てそう言う。
こういう時、真っ先に行動するのはいつも蒼空さんで
私は後ろで見ているだけ。
……あぁ、私、しっかりしないと。
これから蒼空さんはいないんだから…
「頑張って作ったんだろ。じゃあ、渡さないと勿体ないな?」
「っ…………」
「ほら、お客さんがいない間に行ってこい」
トンッ、と陽菜さんの背中を軽く押すと
陽菜さんはその反動で一歩前に進む
振り向いた彼女は、少し緊張しているようにも見えたけれど
「陽菜さん!頑張って!!」
何も出来なかった私は、そんな彼女に応援だけでも出来ればと、そう言った。
ただその一言のみ。
途端、
勇気付けれたのかは、分からないけれど
「……はいっ!ありがとうございます!!」
私達に手を振りながらパン屋へと向かう陽菜さんは、笑顔を浮かべてた。