request
「えー!帰っちゃうのーー」
「用事ないって言ってただろ!」
「急用が出来た」
そして、私の手を引く。
(えっ、え、……いいの?)
私は引っ張られるがままで、蒼空さんの後をついて行くことしかできなくて。
「なんだよ急用って~」
帰ってしまうのが寂しいのか、
1人の男の人が私達の元へと駆け寄るけれど
「大事な用だから」
蒼空さんは
今日1番の笑顔と言ってもいいほど、
とても嬉しそうに微笑むから
「っ……、なら、仕方がねーな!!」
私も含めたみんなが息を呑むほど
その顔に見惚れてしまった。
(こんな顔、初めて見た……)
私も初めてで
「蒼空、あんな顔するんだ…」
「……初めて見るんだけど」
友達も、初めて見るらしい。
………レア中のレアだ。
「じゃあな」
ヒラリと手を振る蒼空さんの横で、私はペコリと頭を下げて、その場を離れる。
私たちがいなくなったその空間では、
「いやー…いいもの見れたね」
「彼女と一緒にいる時の蒼空、ずっと見てたいわ」
ずっとそんな話が続いていたなんて、私達は知らない。