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こんな寒いのに川に入るとかありえないだろ…っと、ちょっと引き気味な様子の蒼空さん。
「…奥様は、その事を知っているんですか?」
そんな蒼空さんをよそに、私は再びその紙に目をとおし西島さんを見た。
「いえ…妻はもう、他界しました。」
その瞬間、事務所がシン…と静まりかえる。
陽葵さんのパソコンのキーボードを打つ音すらなくなり、心音さんもここにいる全員が西島さんへと目線を向けていた。
「あ…そうでしたか…すみません…」
「いえ、大丈夫ですよ。ただ…失くした指輪は妻と交換した物でして…、どうにかしてでも見つけだしたいんです」
顔を俯かせた西島さんに、私と蒼空さんが目を合わす。
探しだす事は簡単だ。けど川の中だと言われれば難しい。
もう既に流されてしまい、違う所にあるかもしれない。
指輪は小さい。もしかしたら魚が間違えて食べてしまっている事も考えられる。
「…………」
「…………」
ただただ無言が続いた。
私は心の中で”無理がある”と思っていた。蒼空さんは眉間にシワを寄せて、何か考えているらしい。
…断ろうか。そう思っていた直後だった。
「………西島さん。ここは『何でも屋』です。頼まれた依頼は出来る事なら何でもします。
…ただ、期限があります。最高で一ヶ月です。それが過ぎればこの依頼をする事はありません。
もしそれで見つからなかったとしても……諦める事はできますか?」
奥の方からそう聞こえた。
振り向けばパソコンを閉じた陽葵さんがいて、
「はい…!お願いします…!」
目を輝かせて言う西島さんに、陽葵さんはいつものようにニコニコと笑っていた。