request




______________________________






「遅れてすみません!!」





やっとのことで事務所に着くと、出勤時間から30分が過ぎようとしていた。急いで階段を駆け上って2階に居た陽葵さんに頭を下げる。



そんな私の腕の中にはさっき見つけたワンコロちゃんが。





「いえいえ、大丈夫ですよ。それにしても…よく見つけられましたね?」





遅れるということは蒼空さんが前もって陽葵さんに連絡を入れてくれていて、ワンコロちゃんが見つかったという件も伝えてくれていた。



だから私の腕の中にいるワンコロちゃんを見ても陽葵さんは驚いた顔一つしない。





「この子が見つけてくれたんです!」





後から2階に上がってきた蒼空さんの腕の中にはソラがいて、私はソラのことを陽葵さんに一から説明した。





「そうでしたか。立派な子ですね……ここで一緒に働いて欲しいくらいです」





そう冗談を言う陽葵さんに私も一緒になって微笑んだ。


確かに才能があるかもしれない…





「この子の飼い主さんとは連絡が取れているのですね?」



「はい!今日迎えに来るって言ってて…」





………あれ。



そーいえば、待ち合わせ場所とか何も決めてなくない?


あとでもう一度連絡しないと…





「じゃあ飼い主さんが迎えに来るまではここで預かっておくとして、月姫さんは昨日貼ったばかりの貼り紙の回収をお願いしてもいいですか?」


「了解です!!!」





貼り紙せっかく作ったのに、あんまり意味なかったや。



見つけてくれたのはソラで、あんな場所ソラがいなかったらきっと見つけられなかっただろう。



特にへこむような事じゃないけれど、作った意味なかったなとちょっとやり切れない気持ち。



……まあでも、良い経験が出来たと思っていよう!貼り紙を作るのは初めてだったし、見つかった事には変わりないのだから。





ワンコロちゃんを床に下ろせば周りを警戒するようにキョロキョロと見渡していた。それに対してソラは蒼空さんの家に来た時と同様で走り回る。



犬種は同じなのにこうも性格は違うんだなとワンコロちゃんとソラを交互に見てそう思った。





「蒼空は昨日と同様にブレスレットの捜索を。心音はすでに川にいると思うので、準備が出来次第合流して下さい。」


「分かりました。」





さっきまでずっと一緒にいたけれど、仕事になると離れてしまう距離。





(早く貼り紙回収して私もブレスレット探し手伝いたいなぁ…)





出来れば川の中になんて入りたくないけど、蒼空さんと一緒に仕事が出来るのなら喜んで出来る。



手伝うと言いながらも、結局は蒼空さんと一緒にいたいというのが本当の理由だ。

< 530 / 660 >

この作品をシェア

pagetop