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「この木、大きいね~!」






立ち上がって、レジャーシートの近くを散歩中。






「あ、みてみて!
あそこに1つだけ真っ赤なのがあるよ」





下から眺めると、満開の桜の中に1つだけ赤くて目立つ桜を見つけた。






「どこ?」


「あれあれ!ここから見るとね─…」






トンッと肩を押されかと思えば、

私の背中が木にあたる。



さっきまで視界いっぱいに桜が映っていたけど、今じゃその視界は蒼空さんでいっぱいになってて──






「そ、らさん?」


「あーほんとだ。真っ赤」


「いや私じゃなくて……」






私の顔じゃなくてさ、桜の事なんだけど…






「……外ではできないって言ってたじゃん」


「言ったっけ」


「さっき言ってたよ」


「覚えてねーなぁ」






グッと縮まった距離。






「見られるよ…?」








「大丈夫。みんな桜に夢中だから」







確かにその通りかも……



そんなことを思いながら、私たちは大きな木の影に隠れて触れるだけのキスをした。





桜がヒラリと舞って


私たちの元へ降り注ぐ。







「花びらいっぱいついてる」


「蒼空さんだって」






お互いのそんな姿を見ては

クスリと笑い合って。














「あら!やっぱり蒼空と月姫ちゃんじゃない!」


「あ!心音さん!!」


「事務所から2人の姿が見えたから来ちゃった♪」


「仕事放棄かよ」


「失礼ね!客がこないから散歩しに来たのよ!」


「放棄じゃねぇか」






2人の絡み、やっぱり好きだ。



久々にそんな姿を見れて嬉しい限り。





後々、陽葵さんも「散歩しにきました」なんて意外にもそんな事を言うから、少しの間だけみんなでお花見をすることに。






「蒼空、もう少しで引っ越しちゃうわね」


「そうですね~」






蒼空さんと陽葵さんは2人で川の方に行っちゃって、私は今、心音さんと2人っきり。






「あら、寂しくないの?」






もっと寂しい顔すると思った。そういう心音さんはニコニコと優しい笑顔。





「うーん、寂しくないって言えば嘘になりますけど、どちらかと言うと楽しみです。遠距離が始まるってことは、また1歩未来に進めたってことですから」





ニコリ。
私も心音さんと同じように笑顔を浮かべる。







「へぇ~?月姫ちゃん、大人になったわね」


「本当ですか?私はただー…」






大人になったわけじゃない。



蒼空さんが、私をそういう気持ちにさせてくれるんです。





下を向いたとき、左手についているその指輪がキラリと輝くと、自然と顔が上にあがるんだ。





この指輪が寂しさを紛らわせてくれる。





だから今は


寂しいというよりも、








「この先のことが楽しみで仕方がないだけです。」


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