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ホームに着くと、

結構その場所には人がいて

別れを惜しむ人達がチラホラと見えた。








(今って別れの季節なんだな、)




今までこんな事経験したことがなかったから、この光景を珍しく思う。





「蒼空さんの電車はどれ?」


「それ」


「え、もう来てるじゃん」





いつの間に来ていたんだろう。


改札にいたから全然気づかなかったや。





「これから3時間は乗りっぱだわ」


「結構長いね~。あ、でも寝てたらあっという間だよ?」







「いや、寝れないな。



俺、割と寂しくなってるし」





そう言う彼は両手に持つ荷物を下に置いて、







「抱きしめていい?」





苦笑いのような、
無理矢理笑みを作っているような、




そんな顔をされては






「おっ…と、」




私から蒼空さんに飛びついた。






「お前、泣かないのな」


「な、泣かないよ~!だって一生会えないわけじゃないし!!」


「………ん。そうだな、安心した。」





ポンポンと背中を軽く叩かれる。







「泣かれると、連れていきそうになる」






………ああ、もう、


そんなことを言われると


私も視界がボヤけてきた。




蒼空さんの乗る電車が出発するという放送が流れた瞬間、なんだか一気に現実味を感じた。





もう行っちゃうんだ。


次はいつ会えるか分からないんだ。


こうやってすぐに抱きつくことも出来ないんだ。




今まで我慢していたものが溢れ出てしまいそうになるけど、グッと堪えた。



この日は絶対に泣かないって決めたから。



蒼空さんの前では絶対に──…








「月姫」





視界に映るのは


さっきの笑顔とは違う、






「今までありがとう。




そして、

これからもよろしく」






辺りがふわりと明るくなるような、
眩しい笑顔を浮かべる蒼空さんだ。







「うん…!こちらこそ……」






"ありがとう"



そう言いかけたけど、


もう、言葉だけじゃ足りない。






電車に乗り込んだ蒼空さんの腕を引いて





一瞬の口付けを交わした。








「───大好きだよ。行ってらっしゃい」




満面の笑みと共に。

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