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蒼空さんの乗った電車が行ってしまったあと、少しの間ずっとその場所から眺めてた。



電車は、もう見えない。


ボーっと、本当にずっと眺めていたと思う。







「……月姫さん?」




湊くんに話しかけられるまでは。






「あ、れ…?なんでここに?」


「僕は綾瀬さんを見送りに……」


「もしかして、さっきの電車?」


「はい。」





なんとまあ偶然。





「そっかぁ……」





近くにあったベンチに腰をおろす。





「………月姫さんも誰かの見送りですか?」





不思議そうに首を傾げる湊くんは、蒼空さんが行ってしまうことを知らないから。






「あー…、うん……」


「……そうですか」





少し気まずい雰囲気を出してしまったみたいで、





「そういえば!もう少しで入学式だね…!」





笑わなきゃ。笑顔笑顔。



そう自分に言い聞かせて顔を上げた。





「楽しみだね~!これから大学で湊くんに会え「月姫さん」




真剣な表情をする湊くんは


どこか心配そうに私を見ていて






「……我慢しなくていいんですよ」





その瞬間、ギュッと胸が締め付けられた。





あ、ダメだ、泣いてしまう。



先輩なんだから、
後輩に涙は見せちゃダメ。







「大丈夫だよ!大丈夫だから……」








でも、それって、誰が決めたんだろう。

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