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「…………っ…」





その瞬間、


プツンと何かが切れたように


我慢していたものが止まることを知らず溢れ出てくる。






「っ……う…」





声にもならなくて


手で必死に涙を拭った。




こんなに涙が出るのは久々だ。






「月姫さんっ……」





私を呼ぶ声。



その声は少し戸惑っているようにも聞こえて、どこか切なげに。







「…………これ、使って下さい」





湊くんが渡してくれたのは
紺色のハンカチで、






「………っ……」






ありがとう。その言葉でさえも出なくて、小さく会釈をして受け取った。



今、湊くんがどんな顔をしているかなんて
全く分からなくて



けれど隣に感じる人の気配はきっと湊くんで


湊くんは私が落ち着くまでずっと隣にいてくれたと思う。




ああ、ダメだな、こんな先輩。


先輩としてしっかりしないと。
そう蒼空さんに言われたのにな──…






「ごめんね、ハンカチありがとう」


「……いえ。」





少しして、やっと落ち着いた私。



貸してもらったハンカチは涙でびしょびしょだ。






「これ洗って返すね」


「いいですよそのままで……」






その瞬間、湊くんがパッと口元に手を当てて





「いや…!そのままの状態が欲しいって意味ではなくて……その…なんて言えばいいんだろう…」





オドオドとしながら顔を赤らめる。



私は湊くんのそんな姿にクスッと笑ってしまう。






「ちゃんと分かってるよ。
気を使ってくれたんだよね?」


「…………………」


「ありがとう。でも洗って返すね。
このまま返すのは申し訳ないし」


「………じゃあお願いします」





「すみません」と、
湊くんは軽く頭を下げていた。



ほんと、湊くんは謙虚な子だと思う。









その後は
改札にいた心音さんと陽葵さんと合流。



2人は湊くんがいる事に驚いた様子だったけど、






「あ"ら久しぶりね"ぇえー!!元気だったぁあ!!?」





未だに心音さんは大号泣したまんま。
泣き方がもはや怖い。



私の手には湊くんが貸してくれたハンカチがあるけど、もうそれはべちゃべちゃだから貸せず。




泣き叫ぶ心音さんをこれ以上ここにいるのは迷惑だと思って、湊くんの許しのもと、パン屋へと移動した。



まあそのパン屋でもだいぶ迷惑だったと思うけど…





後日その話を蒼空さんに電話で話したら、凄く笑ってたっけ。





「二度と見送りさせない方がいい」





ってさ。

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