request
*****
蒼空さんと遠距離が始まって2週間が経った今日。
「月姫おはよ~!」
「おはよう千恵!」
私達は2回生初めての講義がスタートした。
履修科目は1回生の時とあまり変わっていなくて、時間割も似たような感じ。
「……さっきから何してるの?」
先生が来るまでの間、千恵は周りをキョロキョロと見渡したり、ジッと誰かを見つめたりと不審な行動。
「んー、探してるの」
「何を?」
「何って、第二の桜井さんポジの人を!!」
「(……だろうと思った)」
4回生が卒業してからずっと言い続けてたっけ…
次は誰を拝んだらいいんだって。
「桜井さんレベルはさすがにいないよね~」
「どうなんだろうね」
私は特に興味無し。だから周りの人とかよりも、携帯に視線をあてる。
蒼空さんはもう4月のはじめから仕事が始まっているみたいで、4月に入ってから連絡を取れる回数は少し減ってしまった。
だけど、大丈夫。
寂しくないよ。
私には──────
左手につけているそれを見れば、思わずニヤニヤしてしまう私。
そんな私の隣で千恵が「あっ!!」と叫ぶ。
「あれ、湊くんじゃない?」
「え。どこ」
「あそこあそこ」
指差す方に視線をあてれば、前の出入口からこの教室に入ってきたらしい湊くん。
友達も既にできているみたいで、なんだか楽しそう。
「そういえば月姫、湊くんに用があるんじゃなかったっけ?」
「あっ。そうだった」
あの時のハンカチを返したくて。
ちゃんと洗ったし、アイロンもあてた。
あとは返すだけなんだけどー……
(あとでいっか。)
楽しいところを邪魔しちゃ悪いしね。
1時間目の講義も終わり、次の講義までの間にある短い休憩時間。
トイレから再び同じ教室に戻ろうと足を進めれば
「あ、湊くん。」
途中、湊くんに再会。
「こんにちは」と頭を軽く下げる彼に軽く手を振った。
「飲み物買いに行ってたんだ」
「はい。……良かったらこれどうぞ」
渡された物は、私の大好きな飲み物であるチェリースパークリングジュース。
「え、いいの?」
「自販機で当たりが出たので」
「当たったの!?すごーい!滅多に当たらないんだよあの自販機!」
「……そうなんですか」
少し照れくさそうに視線を下に向ける湊くん。
「でも、いいの?貰っちゃって 」
「はい。月姫さんよくさくらんぼのイヤリング付けてるから、さくらんぼ好きかと思いまして。」
確かに。
ほぼ毎日って言っていいほど付けてるかも。
「(それでこれを……)」
わざわざ選んでくれたんだ。
「ありがとうっ!!」
素直に嬉しい気持ちに。
「あ、そうそう私も渡す物があって─…」
脳裏に浮かんだのは例のハンカチで、だけどそれは教室に置いてあるカバンの中。
手元にも無ければ、次の講義担当の先生が教室に入っていくところを見かけて
「ごめん、あとで渡すね!」
私達は慌てるように教室へと向かう。
その途中、パシリと手を掴まれたかと思えば
「……あの、」
頬を少し赤らめた、
緊張した面持ちの彼がいて
「今日………」
何かを言いかけたその時
「湊~?授業始まるぞー」
パタパタと後ろから走って来た
湊くんの友達であろう男の子によって遮られてしまった。
その子は私の存在に気がつくと
首を軽く傾げて怪訝に思ってるみたい。
だって湊くんが私の腕を掴んでいるから。
「………すみません。なんでもないです」
小さい声でそう言う彼は
パッと手を離す。
「今行く」
そしてその男の子と共に教室へと行ってしまった。
(な、なんだったんだろう…)
何を言いたかったのか、さっぱり分からない。
何か大事な用だった?
だとしたら曖昧にしないだろうし…
湊くんから貰ったジュースを眺めてモヤモヤ。
てか、このジュース期間限定らしいのにまだあるんだ。