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目の前に止まった電車に足を進める。
少しの間停車するとアナウンスされた車内。
座席は沢山空いていて、
入ってきた扉の近く、端っこに座った。
ガランとしていた車内だけど、
続々と人が入ってくる。
まだ出発するアナウンスが入っていないにも関わらず、目の前の扉から駆け込むようにして車内に入って来た人もいて、
「はあ…っ」と息を切らすその人は
「あっ…月姫さん……」
額の汗を軽く拭う、湊くんの姿。
湊くんは「はぁ、っ」と未だに息を切らしたままで、
少し苦しそうだった。
「隣……いいですか?」
「あ、うん。どーぞどーぞ!」
トートバッグを下ろして、
私の隣に湊くんがやってきた。
自然と少し近い距離。
まあ電車の座席って距離感近くなるよね。
「走ってきたの?まだ出発する気配ないし、ゆっくりでも大丈夫だったよ」
「暑い…」と、服の首回りを掴んで軽くパタパタと前後に動かす湊くんにクスリと笑ってそう言えば
「月姫さんに会えるかなって、思って」
「!!」
「……走った甲斐がありました」
まだ苦しそうなのにニコッと笑って
「ここ暑いですね…」
再び首回りの服をパタパタと動かす。
あれ……
湊くんって、……こんな子だったっけ。
そう不思議に思ってしまうような感覚に陥った。
ハンカチを貸してくれた事も
今日くれたジュースも
「………ねぇ、湊くん」
人が多くなった車内で
「まだ私のことが好き?」
唐突にそう言ってしまった。
「えっ。」
「あ、えと…間違えてたらごめんね!!………もしそうだとしたら、言っておかなきゃと思って…」
手の動きを止めた彼。
それはきっと
聞く体勢になってくれたということ。