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「………あのね、私───彼氏がいる。

それも凄く好きで、大好きで、ずっとその人のことばかり考えてしまうくらい好きなんだ。

だから…湊くんからの好意は嬉しいけど……」





この先、期待させちゃダメな気がして…







「はい。知ってますよ」





けれど、湊くんからの返事は予想外のもので






「その方といる時の月姫さん、凄く幸せそうな顔をされていますから。」





相手が誰なのかも気づいているらしい。






「………もちろん、僕は月姫さんに気があります。けど、付き合いたいとかそういう気持ちはありません。


月姫さんが笑顔ならそれでいい。
それ以上の関係は求めません。



だから僕のことは──仲のいい友達の1人だと思っていただけたら、幸いです。」






嘘も偽りもないような


そんな笑顔で


淡々と話してくれた。







「なので……今までと変わらずに接していただけると、嬉しいです。」


「も、もちろんだよ…!


こちらこそ、ドジで頼りない私だけど
これからも仲良くしてくれると嬉しい!

湊くんは後輩でもあり、
私の大事な友達でもあるから…」





その言葉に、


湊くんはふわりと笑顔を浮かべてくれた。



この間見せてくれた


とても自然な、裏のない微笑みを。







電車は出発するというアナウンスと共に
ゆっくりと発車した。



気づけば車内はパンパンになるほど人で溢れていて、






「あ、そういえば。

昨日新メニューが出来上がったんです。
オカマさんの協力で…」


「えっ、そうなの!?いつの間に!!」


「最近よく来てくださるんです。監視する人もいないからって」


「(蒼空さんのことだな…)」






たまに事務所で心音さんの姿が見えなくなったかと思えば、そういうことだったのか。




その後は


パン屋の現状やら
大学のことなど


他愛もない話をずっと


駅に着くまで話し続けていた。






…誰かと話をしている間だけは何も考えずにすむんだ。

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