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「あっ。そうだ湊くん」



最寄り駅の改札で

カバンから定期を出した時
ハンカチの存在に気がついた。


ハンカチと共に、
買ったお菓子をセットにして渡す。





「あの時渡したかった物これなの。貸してくれてありがとね!」


「いえ、全然。……お菓子までありがとうございます」


「ううん!それはお礼なんだけど、……あの時、湊くんも何か言いかけてなかった?」






「あー……」





視線を斜め下へと移動させた湊くん。


何か言いづらい事なのかな?





その表情は何かを考えているような
けれども迷いの目もあって




「ん?」と顔を覗き込めば






「……一緒に、帰れませんかって、言いたくて…」





湊くんは観念したみたいに

か細い声でポツリとそう言った。






「え、あ……そうだったんだ…」


「はい…」






言いずらそうにしていたのはきっと、
私があんなことを言ったからだと思う。





彼氏がいるからその好意には応えられない、
ということを。





言ってしまえば、気まずくなるかもしれないと思ったのかも。






「………うん。また一緒に帰ろう!
帰るくらいなら友達同士でもすることだし!」






ニコッと笑えば、湊くんはどこか安心したように顔をほころばせた。





うん、友達だもん。

一緒に帰ることは悪いことじゃないよね?














"いいんじゃない?"





久々に出来た、蒼空さんとの電話。






「だ、だよね!友達同士なら、一緒に帰ることって普通だよね!」


"なんでそんなこと聞いてきたのか謎だけど"


「いや~ちょっと気になっちゃって。

相手が男の子ってこともあるし……」





"………男?"


「あ、うん。湊くんのことだよ!」






その途端






"あー……"






少し間が空いて






"……いいんじゃない?"






遅れてその言葉が。





「だよねだよねっ!

良かったぁ~蒼空さんも私と同じ考えで」


"…………………"






どうやら悩む必要なんて要らなかったみたい。



うん、そうだよね!

友達なんだから普通のことだ!










「あっ、誰か来たみたい」





ピンポーン、と来客音が部屋に鳴り響いた。



確か荷物頼んでたっけ。







"じゃあそろそろ切るわ"


「えっ」


"ん?"


「……やっ!なんでもない!」






最近、電話できる時間が短いなんて







「じゃあ、またね!!」






そんなの、私のわがままに過ぎない。





微かに電話越しに聞こえていたタイピング音が、蒼空さんの忙しさを表してる。






"うん。じゃあな"






ブツッと電話が切れる音。







毎度この音を聞く度に

寂しさというものが込み上げる。





その度に左手の薬指を眺めるんだけど、




ああ、やっぱり


触れたいなって思ってしまう。






優しい目で

優しく微笑んで

優しく私を包み込んで欲しい。




瞳いっぱいに蒼空さんの姿を映したい。







「………ねえ、次に会えるのはいつ?」





こんな事を言ってしまえば、



蒼空さんのことだ。

忙しいにも関わらず会いにきてくれるはずで
私が会いに行けば会ってくれるはず。






望んでいることだけど、
しんどい思いはさせたくなくて






「……………………」






その言葉をグッと胸に秘める。



……寂しいなんて思っちゃダメだよね。




思わせない為に、

この指輪をくれたはずなんだから。









ピンポーン、と再び来客音がして






「あっ、はーい!!」




慌てて玄関の方へと向かう。






蒼空さんのことになると、他のやるべきことをすっかり忘れてしまうらしい。


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