request
とりあえずお願いされた仕事は仕上げないと。そう思って作業を進める。…と。
「求人の"きゅう"間違えてるよ」
「あ、ほんとだ。………ん!?」
確かに"求人"が"球人"って誤字っていたけど、
いやいや、それよりも!
「なんでここにいるんですか!?」
慌てて振り向いた。
緩く微笑むその人は
「久しぶり。って程でもないか」
スーツ姿の優さんだ。
なんで大学に?
しかもスーツで。
「もしかして、留年しちゃったんですか?」
「酷いこと言うね。卒業式の時会ったじゃん」
「あ、そっか……」
じゃあなんでいるんだろう。
その疑問は、優さんの首元に引っ掛けられたカードホルダーを見て理解した。
「……ゼミサポーターしてるんですか?」
「うん。当たり」
ゼミサポーターとは、簡単に言えば先生の補佐をする人のこと。ゼミの先生が教え子の中から優秀な人を選んでお願いすることがあるらしい。
要するに、優さんは選ばれてしまったのだ。
………あれ?でも、優さん就職してるんじゃ?
「今日平日なのに……仕事大丈夫なんですか?
もしかしてサボってたり?」
「サボってないよ。
俺のところ、自由出勤なんだ。家で仕事終わらせたら出勤しなくてもいいシステム。
だから終わったらほぼ自由時間になる」
そして苦笑いを浮かべた彼は
「たぶんそれで融通が効くからって、先生は俺を選んだんだと思うよ。」
どうやらあまりゼミサをやりたくなかったみたい。
ゼミサはゼミサポーターの略で、
大学内ではそう呼ぶ人が多いんだ。
「自由出勤かあ……いいなぁ」
「そう?暇だよ割と。
俺はもっとバリバリ働きたいくらい」
「だったら蒼空さんと代わって下さいよ…」
「桜井?……ああ、確かあの企業に入ったんだっけ。あそこ覚えること多すぎて、はじめのうちは大変だって聞いた事あるよ。
まあ…どこに行っても、はじめは大変だと思うけどね」
だから今、大変そうなんだ。
蒼空さんあまり仕事の話してこないもんね。してこないってことは言いたくないのかもしれないし、聞いてほしくないのかなって。
(1度ちゃんと話し合いたい気もするけど)
蒼空さんの現状を知りたいし、
私も現状を話したい。
事務所に新たなメンバーを加えることとか
TOEICで600点を目指そうとしていることとか
なんでもいいけど、とりあえずそういう話がしたいなぁ…。
「ところで、それは何?」
「あっ、これですか?私の働いてる職場のなんですけど、求人探しの為のチラシを作ってるんです。
良かったら自由出勤の優さんどうですか?」
「いや……自由出勤だったとしても副業はNGだから、ダメだね」
「ゼミサはいいんですか?」
「給料が出るわけじゃないから。
……まあタダ働きってこと」
そう言って、困ったように微笑む。
「それにしても上手だね。作り慣れてるの?」
「はい!こういうの作るの大好きなんで」
「ふぅん……」
優さんは私の目の前にあるノートパソコンに視線を当てていて、
「将来はそういう仕事に?」
「うーん、まあ出来たらそうしようかなって」
そして何か考える素振りを見せると
「だったら、華に話を聞いてみるといいよ。そういう仕事に就いてるから」
「え、そうなんですか!?」
「うん。確かグラフィックデザイナーって言ってた気がする」
「(グラフィックデザイナー……)」
雑誌の広告やポスターなどの印刷物をデザインする職業だっけ?
1度、調べたことがある。
「そういうのが得意なら向いてると思うよ」
「そうですね……考えておきます。」
蒼空さんに話したいことが
またひとつ。