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「お前、熱あるんだって?」
家の中に蒼空さんがいる。
「今何度なわけ?」
幻覚じゃなくて現実。
「おい」
目に映ってるんだもん。
「聞いてんのかよ」
「ふがっ」
ギュッと鼻をつままれてる。
嗚呼……なんだろう、泣きそう。
「熱は?」
「下がってた!」
「食欲は?」
「ある!」
「お前、近いな」
だって、ずっと会いたかった人が目の前にいるんだもん。自然と近くに寄っちゃう。
「じゃあこれは使わねーな」
「何か買って来てくれたの?」
ガサッと袋をテーブルの上に置くと
中に入っているのは
ポカリや熱さまシート、それからゼリー等など。
熱があると思って買ってきてくれたみたい。
「あれ?でも私、熱あるとか言ってないよね?」
なんで知ってるんだろう?
心配掛けたくないと思って、言わなかったのに。
「ああ、心音に聞いた。さっき事務所寄ってたから」
心音さんと陽葵さんには
もし熱が長引いてしまったらと思って
昨日の朝には連絡済み。
「じゃあ、今日は事務所に寄る為に帰ってきたの?」
私は会えないって連絡を入れていたのだから
今ここにいるのは
他に用があったから帰ってきた、ってことになるよね?
「……ちげーよ。」
「え。じゃあなんでここに…」
「お前に会いにきた」
そう言う蒼空さんは
買ってきたゼリーの蓋を開けて
「会えないって言われたけど
意地でも会ってやろうと思って。」
「ん!」
「俺、そろそろ限界だったし」
口にゼリーを入れられては、喋る事はできず。
口内に広がるのは
オレンジのサッパリとした味で
「会えて一安心。」
優しく微笑まれると、
オレンジ味が一瞬にして消えた。
全意識が蒼空さんばかりに集中して、
「ふぁたひもっ…!」
「分かんねーからとりあえず食え」
ゴクンっと、飲み込んで
隣にいる蒼空さんに顔を近づけた。
「ずっとずっと会いたかった!
会いたくて夢にまで出たくらい!!」
「ちけーな…」
「現実だと思って湊くんに抱きついちゃったもん!!そのぐらい会いたかった…!!!」
「………抱きついた?」
「うん!!たぶん!
あんまり記憶にないんだけどね、昨日──」
気分が高揚しているからか
昨日のことをペラペラと話してしまって
「それで湊くんがここまで運んでくれたみたいで、その時に蒼空さんだと思って抱きついちゃったと思う」
「………………」
「だって凄いリアルな夢だったんだもん!
こうやってね、蒼空さんに手を伸ばして──」
夢の中で起こったことを再現しようと、蒼空さんの頬に手を伸ばす。…が。
パシッ、と。
その手は頬に触れる前に掴まれてしまう。
「………蒼空さん?」
視界に映るのは
眉根を寄せて
いかにも不機嫌モードの蒼空さんで。