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「まあ、向いてると思うよ」
「んー…じゃあもうちょっと誘ってみようかな~ あんまり乗り気じゃなかったんだよね、湊くん」
「………ふーん」
「蒼空さんが推薦するくらいなんだから、入ってくれると心強いかもだし」
「推薦したの俺じゃねーけどな」
蒼空さんは「あ─…」と嘆くように声を漏らすと
「俺も戻りたくなってきた」
「どこに?」
「あの事務所に」
「今日帰ったんじゃないの?」
「その戻るじゃなくて、働きたいってこと」
あー、なるほど。
もし戻れるのだとしたら、戻ってきてほしいよ私だって。
「今の仕事、楽しくないの?」
「楽しいってゆー実感はねーな。まあまだ入社したばっかだし」
「優さんに聞いたけど……蒼空さんのとこ、覚えること多いんでしょ?」
ああ、また、蒼空さんの目がギッと細くなった。
優さんの名前を出したからだな…
「……それはもー乗り越えた。あとは実践してみるだけ。」
「おお……さすが蒼空さん」
どのくらい大変なのか、私にはまだ分からないけど。
「ねね、蒼空さん」
「ん?」
「いーこいーこしてあげようか?」
「………………」
しまった。調子乗った。
だって蒼空さん、なんだか褒めて欲しそうな顔してたんだもん…つい。
ジロリと私の顔を見てくるから
「なめんなクソガキ」とか言って、またデコピンされるんじゃないかと思った。
「ご、ごめん。調子乗っ……」
た。
そう言う前に
「ん。」
蒼空さんは、意外にも私に頭を向けるから
「ふぇ…?」
思わずヘンテコな声が漏れた。
「え、まって、え?」
「……なに」
「いや……え?」
「早くやれよ」
「あ、はい。」
焦りながらもふわりと優しく頭を撫でる。
こうやって頭を撫でるのって……意外にも初めてじゃない?
「……何笑ってんだ」
「えー?いやー……蒼空さん可愛いなって」
ふわふわとした柔らかい髪質。
ずっと撫でてられるくらい、触り心地良すぎ。
(………あ、またそんなこと言ったら…)
……キレられるんじゃ。