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「もう行っちゃうの…?」
次の日の昼。
蒼空さんが帰ってしまうまでの間は一瞬で時が経った。
本当に一瞬で、早送りされたんじゃないかってくらい早かった。
「またすぐ会えるって」
「うん…」
駅まで送ると言ったのに、病み上がりは家にいろと言われてしまい、見送りは玄関まで。
「───ああ、そうだ」
靴を履き終えてスクッと立ち上がった彼はカバンの中をガサガサと探り始める。
私はただ、
寂しいな~とか
蒼空さんってやっぱ身長高いな~とか
また髪の毛触りたいな~とか
ボーッとそんなことを考えてた。
「月姫」
と、名前を呼ばれるまでは。
「あ、なに?」
「手、出して」
「えーと、左手?右手?」
「どっちでもいい」
今回は指定無しか。
昨日は左手出せって言われたからさ。
じゃあ、と出したのは左手で
その手のひらに蒼空さんが何かを置いた。
ヒヤリと一瞬冷たい感覚と
「極限に会いたくなったら、ここにおいで」
その言葉の意味は
「いいの!?」
その物を見て知る。
私の手のひらにはキラリと輝く鍵が1つ。
きっとそれは蒼空さんが住んでる家の鍵。
新品なのか、綺麗なまま。
「いつ行ってもいいの!?」
「いーよ」
「明日にでも!?」
「大学行け」
「休む!!!」
「却下」
「まだ風邪引いてるし!」
「風邪は俺が全部貰っといたから大丈夫」
そう言われてしまうと、無意識にもカッと顔が熱くなった。
「いや、貰えてないみたいだな」
私のそんな顔を見てクスリと笑う。
「大学はちゃんと行け。1、2回生の単位が後々大事になってくるから」
「う─…分かった…」
卒業生に言われると説得力がありすぎる。
こういう所はやっぱり大人だなーって。
「休みの日は遊びに来てもいーから」
撫でたいと思っていた私だけど、逆に蒼空さんに頭を撫でられてしまった。
全然嫌じゃないけど。
寧ろもっと撫でて欲しい。
「…向こうに着いたら連絡してね?」
「ん。りょーかい」
カバンを再び肩に掛け直し
「じゃあな」
ニコリと笑って、蒼空さんは行ってしまった。
その笑顔……反則です。