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「湊くん…あの日のことなんだけどさ……」
食堂に湊くんを呼び出して、あの日抱きついてしまったであろうあの事を謝罪しようとした。
「えっと……」
「わぁあ!!やっぱりそうだよね!?
ほんっっとうにごめんなさいっ!!!!
あと部屋まで運んでくれてありがとう…!!」
湊くんが薄らと頬を赤く染めるから
間違いなく抱きついてしまったらしい。
「いや…えと、大丈夫です……」
「本当に…?」
「はい…、もう…気にしないで下さい」
ああ…本当に申し訳ないことをしてしまった。
1回も目を合わせてくれないし……
(これは完全に湊くんに嫌われ……)
「僕、やってみようと思ってます」
「………ん?」
その途端、バチッと湊くんと目が合った。
スッも机の上に出された物は、
私が作った陽葵何でも屋の求人募集のチラシ。
「……働いてみたいです」
「………、……えっ!?」
「ダメですか…?」
「え、いや、違うくて…!」
嫌われたと思っていたものだから、この件も完璧断られると思ってた。
なのに、この話を持ち出したのは湊くんの方で、湊くんは働いてみたいと言った。
「聞き間違えじゃないよね…?」
「え?」
「陽葵何でも屋に来てくれるの?」
「はい。そう考えてます」
「ここの従業員として?」
「はい……そうですね」
「本当に?」
「本当です…けど……?」
しまった。私が疑ってるような事ばかり言うから、湊くん凄く怪訝そうにしてる。
「あの……無理ならそれはそれで仕方がないと思ってます…」
「や、違うくて!!」
ガタッと立ち上がれば、湊くんは目を丸くさせて驚いた表情。
そんな湊くんの手を掴み
「行こう!!!」
「え…?」
「事務所に!!」
「え、」
「面接しに行こう!!!」
それからはとんとん拍子に
「合格です」
「え。」
陽葵さんとの軽い面接後、正式に湊くんがこの何でも屋の新たなメンバーに加わった。
「そろそろ来てくれると思っていたんですよ」
陽葵さんは湊くんを見てニコリと微笑む。
なんだかその表情は、ここに湊くんが来ることを気づいていたかのような。
「湊ちゃんよろしくねぇ~!」
「わわっ…」
心音さんの抱きつき癖は今でも健在で、抱きつかれている湊くんは戸惑ってる。
「陽葵さん、湊くんがここに来ること分かってたんですか?」
「まあ、少しね。あの子が勧めていたくらいですから即採用ですよ」
「(あの子……?)」
って、誰のことなんだろう。
怪訝に思いながらも、湊くんが新たなメンバーとして加わってくれたことに嬉しい気持ち。
その気持ちを早く蒼空さんに伝えたくて
"良かったじゃん"
仕事終わりに速攻連絡。
「面接っぽい面接してないのに速攻合格貰ってたの!」
"へぇ、すごいすごい"
「棒読み!!!」
"してねーよ"
蒼空さんもなんだかこうなる事を分かっていたかのような、そんな感じがする。
そして電話越しから聞こえる声は、
蒼空さん以外にもザワついていて
「蒼空さん今なにしてるの?」
周りがザワザワと騒がしいから、きっと家じゃないよね?
"ああ、今呑みに来てる"
「あ、そうなんだ。」
呑み会かな?
じゃあもう切った方がいいと思って
「じゃあ蒼空さんまた───」
と、
"そらぁ~!!いつまでそこにいんのよ~ 早くこっちに来て呑みなさいよぉ~!!"
大きな声。
その声は絶対女の人で
"…酔っ払いうぜぇ"
"ああ!!今なんか言ったでしょ!?明日覚えてなさいよぉ!!"
"はいはい、今行きます。じゃあな月姫。"
「あ、うん!またね…」
ブツッ…と電話は終わってしまい、私の中ではモヤモヤが募る。
チラリと鏡に視線をあてて
(痕……私も蒼空さんに付ければよかった)
なんて。ちょっとした後悔。
不安が無いわけじゃないけど、蒼空さんの感じからしてあの声の持ち主はきっと年上のお姉さん。
「…………………」
年下の私からしたら、ちょっぴり焦ってしまう。