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「あれ?湊くんは?」





湊くんがこの事務所にやってきて少し経った。





そんな湊くんの姿が見当たらない。



それは今日に限らず、複数回にわたって。






「そうなのよ~私も探してるんだけど、どこにもいないのよね~」


「でもカバンはありますね…」


「陽葵さんは知らない~?」






心音さんはデスクにいる陽葵さんにそう声をかけるけど、






「さあ、分かりません」






ニコリと微笑むその表情は、実は知っている気がする。






「蒼空とは違って細身だから抱きつきやすいのに~」



「(あ。)」






心音さんのその言葉に、





まさかと思って







「湊くん~?もしかして、そこにいる?」






ひょっこりと三階のベランダから屋根を見上げた。





ベランダにはこの間蒼空さんが準備していた物が定位置に置かれていて、






「あっ。やっぱりいた」


「……………………」






ひょっこりと平屋根からベランダを見下げるように見る湊くんがいた。






「心音さんから逃げてきたんでしょ?」


「…………はい」


「抱きつき癖あるもんね~ 私もそっち行っていい?」


「あ、はい、…どうぞ」






台のような物に登って、



屋根に手を置くんだけど






「え、まって、よくこの高さ登れたね…?」






どうやったら屋根の上に登れるのか。



この間は蒼空さんに抱っこされて乗せてもらったから、自らここに登るのは初めてだ。






「よいしょっ……




あー…ダメだぁ…」






私の筋力の問題なのか、



それともこの低身長のせいなのか。





いや、まあ、身長でしょうね。





登れなさそうだし、もう諦めよう。



そう思っていたところで、






「月姫さん」


「ん?」





「……触れてもいいですか?」


「ふ、…え?」


「いや……僕が引っ張りあげるんで」


「あ、じゃあ…お願いしようかな」






そう言うと、湊くんは少し躊躇いながらも






「ぉわっ!」






私の身体に触れて引っ張りあげた。



重たいと思うのに顔を顰めることはなく、
いとも簡単に引き上げた。






「あ、ありがとう……」


「…いえ」








ここに登るのはあの日以来だ。




あの日と少し違うと言えば、まだ外が少し明るいこと。夕日が沈みかけている時間だ。







「湊くんもこの場所知ってたんだね」


「いや……知ってたというか…」


「というか?」


「…………………」






言っていいのかな…そんな顔をする湊くん。






考えあぐねるように視線をさまよわせていたけど、







「蒼空さんに、教えてもらって…」






最後にはしっかりと私へ向いた。







「え、そうなの!?」


「はい…」


「蒼空さんと仲良かったんだ?知らなかった~」


「いや………はい。」







意外中の意外だけど、まあ1度会話したことあるから仲良くなっててもおかしくないか。

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