極愛初夜-血脈だけの婚姻-
綾瀬琴子はまさに真面目なOLを絵にかいたような存在だった。出会ったのはつい昨日のことだったが、神月蒼はその姿を自身の祖父から渡された写真で見た。
あの綾瀬呉服店の孫娘であるから、きっと高飛車で面倒な性格なのだろうと思っていたから、あの態度には拍子抜けした。
祖父から綾瀬家との婚姻を持ち掛けられたときは、これも神月グループの成長のためだから仕方のないことだと思っていた。だがあんな真面目な子が家同士の利益に使われていると思うと胸の奥が痛む。だがそうもいっていられないのが綾瀬呉服店の現状だろう。
そんな彼女にできることといえば、今後やってくるであろう彼女の正式な夫のために後腐れなく分かれてやるぐらいだ。俺と琴子の間に子どもを設けるのが援助の条件だそうなので、手っ取り早く作ってしまえば良い。そう思っていたからこそ、俺は他の女性より、この生活が少しでも彼女にとって良かったと思えるようにしたい。彼女に優しく接してきた。
彼女を執務室の隣の空きオフィスに案内して、部屋に戻る。彼女の仕事ぶりは企画部の部長から聞いている。かなり評判は良かった。特に仲良くしている同僚はおらず、いつもひとりで黙々と業務をこなすというらしいから、きっと秘書業務も大丈夫だろう。俺はそんなことをぽやぽやと考えながら、今日のスケジュールを見直した。
手元の時計が十二時を指示したのを合図に、腹の音がぐうっと鳴った。そういえば今日は朝から何も食べていない。琴子には執務室で食べるといったのに。すっかり忘れてしまっていた。
開いていたパソコンを閉じて、お昼ご飯をどうするかを悩む。いつもは一人で外に言行って食べているのに、今日はそういう気にはなれなかった。
琴子はどうしているだろうか。ふと隣のオフィスの存在が気になった。ちょうどいい。琴子を誘って昼食を取ろう。そう思って、俺は席を立った。
軽くノックすると、中から琴子の声が聞こえる。扉を開く。
「綾瀬、進捗はどうだ。」
「はい。問題ありません。…何か私に御用でしょうか。」
「まあ用っていうわけじゃないんだが、お昼でも一緒にどうかと思って。」
頭の中でいくつか有名なレストランを思い浮かべる。琴子はどんなものが好きだろうか。女性に人気だと言われているパスタのレストランなどが良いかもしれない。
そうあれこれ考えていると、琴子が口を開いた。
「私は…遠慮しておきます。」
「え」
予想だにしなかった答えに間抜けな声が漏れた。
「もしかして、何かお弁当とか持ってきてるのか?」
「いえ、そういうわけではありません。私は社員食堂でいただこうかと思いまして。」
「そう、か。」
先ほどまで考えていた計画ががらがらと音を立てて崩れいていく。今まで女性に断られるなんてことを経験してこなかっただけもあって、ショックだ。
「ではまた次の機会に…」
「社長、誠に申し訳ありませんが、そういったことは避けたほうがよろしいかと思います。私たちは契約上の夫婦なのですから。」
「それでは失礼いたします。」そう言って俺の横をすり抜けていく琴子を、俺は止めることができなかった。
あの綾瀬呉服店の孫娘であるから、きっと高飛車で面倒な性格なのだろうと思っていたから、あの態度には拍子抜けした。
祖父から綾瀬家との婚姻を持ち掛けられたときは、これも神月グループの成長のためだから仕方のないことだと思っていた。だがあんな真面目な子が家同士の利益に使われていると思うと胸の奥が痛む。だがそうもいっていられないのが綾瀬呉服店の現状だろう。
そんな彼女にできることといえば、今後やってくるであろう彼女の正式な夫のために後腐れなく分かれてやるぐらいだ。俺と琴子の間に子どもを設けるのが援助の条件だそうなので、手っ取り早く作ってしまえば良い。そう思っていたからこそ、俺は他の女性より、この生活が少しでも彼女にとって良かったと思えるようにしたい。彼女に優しく接してきた。
彼女を執務室の隣の空きオフィスに案内して、部屋に戻る。彼女の仕事ぶりは企画部の部長から聞いている。かなり評判は良かった。特に仲良くしている同僚はおらず、いつもひとりで黙々と業務をこなすというらしいから、きっと秘書業務も大丈夫だろう。俺はそんなことをぽやぽやと考えながら、今日のスケジュールを見直した。
手元の時計が十二時を指示したのを合図に、腹の音がぐうっと鳴った。そういえば今日は朝から何も食べていない。琴子には執務室で食べるといったのに。すっかり忘れてしまっていた。
開いていたパソコンを閉じて、お昼ご飯をどうするかを悩む。いつもは一人で外に言行って食べているのに、今日はそういう気にはなれなかった。
琴子はどうしているだろうか。ふと隣のオフィスの存在が気になった。ちょうどいい。琴子を誘って昼食を取ろう。そう思って、俺は席を立った。
軽くノックすると、中から琴子の声が聞こえる。扉を開く。
「綾瀬、進捗はどうだ。」
「はい。問題ありません。…何か私に御用でしょうか。」
「まあ用っていうわけじゃないんだが、お昼でも一緒にどうかと思って。」
頭の中でいくつか有名なレストランを思い浮かべる。琴子はどんなものが好きだろうか。女性に人気だと言われているパスタのレストランなどが良いかもしれない。
そうあれこれ考えていると、琴子が口を開いた。
「私は…遠慮しておきます。」
「え」
予想だにしなかった答えに間抜けな声が漏れた。
「もしかして、何かお弁当とか持ってきてるのか?」
「いえ、そういうわけではありません。私は社員食堂でいただこうかと思いまして。」
「そう、か。」
先ほどまで考えていた計画ががらがらと音を立てて崩れいていく。今まで女性に断られるなんてことを経験してこなかっただけもあって、ショックだ。
「ではまた次の機会に…」
「社長、誠に申し訳ありませんが、そういったことは避けたほうがよろしいかと思います。私たちは契約上の夫婦なのですから。」
「それでは失礼いたします。」そう言って俺の横をすり抜けていく琴子を、俺は止めることができなかった。