堕ちて、堕ちて、地獄まで。
「暑」
まだまだ夏はこれからだっていうのに、じりじりと太陽が照りつける。
朝からこんなに暑いんじゃ、帰りどうしろっていうの。
「長袖だからだろ」
莉音にそう突っ込まれる。確かに私が今着ているのは、長袖のワイシャツだった。
「仕方ないよ、学校が寒いんだし」
学校のクーラーは効きすぎていて、私みたいな人だと逆に寒すぎることもある。でも、
「どこが?あれで適温じゃんよ」
莉音みたいな人もいるから、寒い人は自己調節みたいな感じ。実際には、私もちょっと寒い方が好きだったりはする。
するとふと思い出したように彼が話し始めた。
「てか女子って日傘とか無くていいの?日焼けすんぞ」
「別に…そういうのは大丈夫」
日傘は必要なものと言われれば違うと思う。
それがないと死ぬわけでもないし。
昔から、私の家では欲しいものは理由を言って了承してもらわなければならなかった。
言ってしまえばスマホも必要ではないかもしれないけど、そこは連絡を取る用だとどうにか説得して買ってもらった記憶がある。
それは物に欲がない私が唯一欲しがったものだった。
「そ」
自分から聞いたくせに心底どうでもよさそうな口調で彼は言う。
そんなんだったら聞かなきゃよかったのにとか思うけど、たぶん彼はそういう人なんだろう。そう思い直した。
「何してんの?行くよ」
立ち止まった私を見て、怪訝そうな表情をする彼。
「うん」
私は走ってその背中を追った。