堕ちて、堕ちて、地獄まで。
「別に俺は嘘をついてはいないよ。それが本当かは分からないけど。ただそう思っただけだから」
鈴城くんはそう言うと、すたすたと歩きだしてしまった。
「ちょっと待って!」
私が慌てて呼び止めると、彼はくるりと後ろを振り向いてきた。
その顔を見て、やっぱりこの人の顔は整っているんだなと再認識させられる。唯一の難点と言えば若干寝癖が目立っているところか。
「…どういう意味、なの」
私は必死にその質問を絞り出した、つもりだった。
数秒の沈黙の後、聞こえたのは笑い声だった。
私ははっと目を上げて、彼の色素の薄い茶色の目を捉えた。
「坂口莉音の隣に立つって決めたのかは知らないけど、誰かの隣に立ちたいんならそんな事聞くんじゃないよ」
そう言い残すと、彼はそれ以上私に目をくれることもなく改札を通って行ってしまった。
「どういう、こと…?」
私の独り言は、すぐに電車の音でかき消された。