堕ちて、堕ちて、地獄まで。
「私は、莉音が優しいのを知ってるよ。ちょっと照れ屋さんなところも好きだし、ぜんぶ愛しく感じられるの。
そんな人がお兄ちゃんなら、愛樹ちゃんも寧ろ言えなかったんじゃないかな」
「…」
微妙な反応をする彼。そりゃあそうだ、こんなこと言われても綺麗事だとしか思えないはず。
「…ごめん。これじゃ何も意味ないよね。
愛樹ちゃんが死んだことは、もしかしたら莉音のせいかもしれない。
気づいてやれなかったことも罪なのかもしれない。
でも、罪か罪じゃないかを問うよりも、そうやって愛樹ちゃんの存在が今も莉音の中に生きている方が、大事だよ」
少しの間があった。ちょっと偉そうなことを言ってしまったかな、と思っていると、彼がはっと顔を上げたのが分かった。
「…月果…」
ゆっくりと、まるで壊れ物を扱うかのように、彼の腕が私の背中に回るのがわかった。
その嗚咽を聞きながら、私はずっと彼の頭を優しく抱いていた。
「…ごめん」
莉音は顔を背けたまま言った。私もそれを見ないようにしながら首を振る。
「ううん。莉音にとって落ち着けるような存在になったんだったら、私は嬉しいよ」