堕ちて、堕ちて、地獄まで。
帆奈と塔雅さんが2階へ登っていくのを見て私も倣おうとすると、風磨がそれを止める。
「あーちなみにあんたはここで俺らとお喋りな。いくら帆奈の親友と言っても、流石に何も知らない女を幹部室に入れられないから」
「あー…ごめん」
幹部室…それはきっと、幹部と呼ばれている人しか入れない部屋なのだろう。自分が無知なのが恥ずかしくて、顔が赤くなる。
「月さんですよね?俺、零です。一ノ瀬零って言います」
そんな私に話しかけてくれたのは、帆奈からも聞いた名前の男の子。さらさらのグレーのマッシュで、耳にはピアスやらなんやらがごてごてとつけられている。塔雅さんもマッシュだけど、零さんは無造作ヘアでそれも格好いい。
優しげな印象だが、大きなピアスやイヤカフの所為か塔雅さんよりはだいぶ暴走族っぽいイメージがする。
「こんにちは。…月です」
うっかり自分の名を言うことのないように気をつけながら、私は偽名を口にする。
「月さんは暴走族の倉庫に来るのは初めてですか?」
「そうです…けど」
と言うと、零さんはぱあっと笑みを作る。
「族の倉庫っていろんなものが眠っているんですよね〜。実は今日掃除しようかと思ってたんですけど…よければ一緒に整理手伝ってくれませんか?」